コンピューターウイルスの歴史(前編)
2024/11/16
コンピューターウイルスの歴史は、情報技術の発展とともに進化してきました。ウイルスは、悪意を持つプログラムとして、コンピュータやネットワークに深刻な影響を及ぼす可能性があります。コンピューターウイルスが登場した初期の頃から現在に至るまで、どのような変遷を遂げてきたのか、そしてどのような技術的、社会的な背景がその発展を助けたのかを見ていきましょう。
1. コンピューターウイルスの定義と基本的な仕組み
コンピューターウイルスは、自己複製するプログラムであり、他のプログラムやファイルに感染することで拡大し、悪影響を及ぼすものです。通常、ウイルスは自らを他のファイルやプログラムに埋め込むことによって、その存在を隠しながら拡散していきます。ウイルスは多くの場合、コンピューターの動作を遅くする、データを破壊する、または悪意のある行動(例えば、個人情報の盗難)を行います。
ウイルスと似たような言葉に「ワーム」や「トロイの木馬」がありますが、これらはウイルスとは異なる概念です。ワームはウイルスと違って他のプログラムに寄生せず、ネットワークを通じて独立して拡散します。一方、トロイの木馬は自己複製を行わないものの、ユーザーが無意識のうちに実行してしまう悪意のあるプログラムです。
2. 初期のコンピューターウイルス(1980年代)
コンピューターウイルスの歴史は、1980年代にさかのぼります。この時期のウイルスは、主に研究者やエンジニアによって作られたもので、しばしばその動作を観察することが目的でした。
2.1. "Creeper"(1971年)
最も初期に登場した自己複製型プログラムとして知られているのは「Creeper」です。これは、1971年にBBS(電子掲示板)ネットワークで動作する「レプリケーター」として作成されました。このプログラムは、ネットワーク上のコンピュータを自動的に移動し、表示メッセージ「I'M THE CREEPER: CATCH ME IF YOU CAN」を出すというもので、いわゆるウイルス的な挙動を示していました。
その後、Creeperを追跡して削除するために作られたのが「Reaper」というプログラムで、これは「最初のアンチウイルスソフト」とも言われています。この時期のウイルスは主に実験的なもので、悪意のある目的ではなく、単なるプログラミングの挑戦に過ぎませんでした。
2.2. "Brain"(1986年)
1986年に登場した「Brain」は、コンピューターウイルスとして初めて本格的に注目された存在です。このウイルスは、IBM PCのフロッピーディスクに感染するもので、アメリカのパキスタン人兄弟によって作られました。目的は、商業的に流通していた盗版ソフトウェアに対する警告でしたが、悪意を持ったユーザーによって悪用され、広範囲に拡散しました。このウイルスは、パソコンに感染すると、そのディスクのトップディレクトリにメッセージを表示させるというもので、自己複製と拡散の最初の例として注目されました。
3. コンピューターウイルスの急成長と変化(1990年代)
1990年代に入ると、パソコンの普及とインターネットの発展に伴い、ウイルスも急速に進化し、悪意のある行動を取るようになりました。この時期、コンピューターウイルスは単なる迷惑プログラムから、商業的な利益を狙った詐欺的な手段へと変わりつつありました。
3.1. "Michelangelo"(1992年)
1992年、"Michelangelo"ウイルスが大きな話題を呼びました。このウイルスは、1992年3月6日に感染したコンピュータ上でハードディスクを破壊することが知られており、その「破壊的な性質」が注目を集めました。特定の日時に活動を開始することから、ウイルスの発症日を恐れて多くのユーザーが不安になり、警戒しました。結果的に、"Michelangelo"ウイルスは大規模な被害を引き起こすことはありませんでしたが、その存在はウイルスの危険性を広く認識させる契機となりました。
3.2. "ILOVEYOU"(2000年)
2000年には「ILOVEYOU」というウイルスが大きな話題となりました。これは、電子メールの添付ファイルとして広まり、多くのコンピュータに感染した後、個人情報を盗み出し、さらに他のコンピュータへの感染を広げるという特性を持っていました。特にその拡散方法が巧妙で、電子メールの本文が「I love you」という非常に魅力的なメッセージだったため、多くの人々が開封してしまいました。結果として、ILOVEYOUウイルスは世界中で数十億ドルの経済的損失を引き起こしました。
後編に続く
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